個展のお知らせ 〈2024 3/23〜4/6 ギャラリー椿〉3/10更新

 

今回は水をモチーフにした作品が中心になります。これまで「絵画空間をどのような空気で満たすことができるか」について考え制作してきましたが、今回は空気よりも水を意識しています。


「明るい水」

 

本展のタイトル「明るい水」は、岬多加子さんの詩集「あかるい水になるように」から引用したものです。庭という小さな世界にいる小さなものたちに思いをはせた詩集です。ここ数年の大きなものに圧倒されていく日々の中でこの詩集と出会い、見過ごしていた「存在」や「時間」に改めて気付くきっかけをもらいました。表題の「あかるい水」という不思議な言葉に着想を得て制作が始まり、「あかるいところから くらいところは見えない」という詩の一節が制作の重要な指針となりました。

近年は「絵画空間をどのような空気で満たすことができるか」を考え、透明な空気の層を描くためのモチーフとして風景を選んでいます。今回のモチーフはピンクのネオンに照らされた水槽、唐時代の沈没船から発見された陶器、シーグラス、雨といった、空気よりも水を意識しました。旅先で反応した風景は水が多く、日常でも気になるものは雨や湿度でした。「水に馴染む」という言葉がありますが、馴染んでいない時ほど敏感に世界を感じているように思います。逆に馴染んでいる時ほど、まるでテンポのない世界にいるような無の状態になります。その無の状態にある種の「明るさ」を見出した時に、千年以上海に沈んでいた陶器の削ぎ落とされた鮮烈な「明るさ」、またその存在感と個の強さに驚嘆しました。一方で、無理やりネオンに照らされた水槽は、澱んだ水が複雑な「明るさ」を孕んでいるように見えました。

望まない刺激にさらされ、テンポの多すぎる世界に生き続けること、変化のない停滞した世界で無を感じること、どちらも等しく明るさと暗さを感じて繋がり続けることに違いはありません。私はこのさまざまな明度を通して、小さな世界との繋がり方を模索し表現したいと思います。